寝た超

寝過ぎると、あくびが沢山でます(妹情報)

いい感じの話

日曜日。目覚まし時計の鳴らない休日。先に目覚めたのは私の方。左を向くと、修史が壁と向かい合って寝ている。まただ。いつも彼は私に背中を向ける。寂しくて後ろから抱きつくけれど、やっぱり男の人の体は大きくて、包み込めず、くっつくだけになってしまって、虚しい。

なんてことをしているうちに、修史は目を覚まし、すぐに布団から出てしまった。布団の中で二人でだらだらと過ごすのが、イイのに…。

電車に乗って、街へ買い物にでかけた。修史は男の人にしてはゆっくりと歩く。いつものコースをぶらぶらと当てもなく歩いた。テレビの話や、音楽の話なんかをしながら。話をするのはいつも私の方。わざと黙ってみる。沈黙が続く。(もしこのまま私が喋らなかったらどうするんだろう?修史は私が話しかけるから喋るの?私に好きだって言われるから好きなの?)センター街を歩きながら思った。結局、耐え切れずに私から喋ってしまうのがいつものパターンなわけだけど。

「キスして」

「だめだよ」

信号待ちでのお願い事は瞬時に断られてしまった。分かってるけど。でも。何よ。最初の頃、外でも平気で胸やお尻を触ってきてたのは修史の方じゃない。キスだって、して欲しいときにしてくれた。なのに、3年経った今はそんなこと全くなくなった。私は23歳。修史は26歳。もうイイオトナなんだし、変わって当然かもしれない。

「ツンツンしないの」

明らかに不満そうな私に、修史は言った。

何よ。何よ。これじゃあ私が盛ってるみたいじゃない。

それから洋服を見たり、最新の携帯を見たりした。そろそろ、かな。私は思った。そろそろ元気がなくなる頃だ。修史は街へ出てくると歩き疲れるか人の多さに疲れるかお店を見るのに飽きるかして、だんだんとテンションが下がってくる。元々少ない口数がさらに減る。こうなると、私もつまらなくなる。

「次、ハンズに行きたい」

「だめ。帰る」

「なんで。まだ16時だよ。」

「うん。でももう帰る」

出た。なんて自己中なやつ。

帰り道、私たちはなんとなく無言だった。不機嫌なわけでもなく。さっきのようなことがあったって大体こんな感じでおさまる。思えば私たちはずっとそうだった。安全も危険もない平らな道を歩んできた。きっとこれからもこんな感じなんだろう。急な上り坂もなく、落とし穴もなく。山場もなく、ケンカもなく、付き合ってく。なんだか、うんざりした。

マンションに着いた。私は鍵を取り出し、ガチャリと開けた。ただいま、と言って中に入った。続いて修史が入り、中からガチャリと鍵をかけた。

「未希」

修史が呼んだ

「ん?」

振り返った。修史が私を抱きしめる。キスをする。何度も、何度も。キスをする。

「なに。どしたの。」

彼を見つめ、言った

「今日、してって言われたとき出来なかったから。我慢させて悪かったと思って。」

私の頭を撫でながら、静かに言った

きゅん

胸が鳴った

「だから早く帰りたがってたの?」

「ん? …うん」

…ばかだな、あたし。彼はいつだって、私に合わせてゆっくり歩いてくれてたのに。歩幅を合わせてゆっくりと。私の話を何でも聞いてくれて。

二人して照れくさそうに えへへ、と笑って抱き合った

次の日の朝、目が覚めると彼は背中を向けて寝ている。私はいつものように後から腕をまわして抱きしめようと試みて、いつものように失敗し、いつものように虚しくなって、腕を離し、ごろりと体勢を変え、彼に背中を向けた。すると、修史が付いてきて、後ろから私をすっぽりと抱きかかえ、ぎゅっと、締め付けた。

死ぬまでずっとこうしていたい、と思うくらい幸せだった。

本当にあのままずっとそうしていればよかった。

3日後、修史が、死んだ。

事故だった。本当に人って死ぬんだと思った。私には何もかも信じられなかった。今も信じられない。土曜日になったらいつものように泊まりに来る気がする。もう会えないんだって思ったら涙がとまらなくなる。もう、どうしていいか分からない。

日曜日。目覚まし時計の鳴らない休日。目覚めたのは私だけ。左を向く。修史はきっと背中を向けて眠っている。後ろから腕をまわして抱き締めた。強く。強く。なぜだか今は包み込めるみたい。

「修史。キスして。ねえ。今度はいつまで我慢してたらしてくれるの?」

あの時のたくさんのキスは“これから我慢させる分”だったのかもしれない、なんてことをぼんやりと考えながら私はごろりと体勢を変えて、涙を拭いた。